「花岡さん」の夢

小学校で同級生だった「花岡さん」が夢に出てきた。ほとんど会話したことはないはずだけれど、彼女は何度か私の夢に出てきている。

今日見た夢では私が「花岡さん」を含む何人かの人物を探して、あちこち歩き回るというシチュエーションだった。

私が「花岡さん」と同じクラスになったのは確か小学3年生と4年生の時。小学校では2年ごとにクラス替えがあったので、2年間は一緒だった。「花岡さん」はハキハキと自分の主張を述べるタイプの人で、群れずに行動していて、周りからは正直あまり好かれていなかった印象があった。

中学校に上がり、私はまた「花岡さん」と同じクラスになった。私は小学校で仲の良かった友達とは離れ離れになってしまい、さらに周りはすでに仲良しグループができあがっていた。

私はクラスで孤立したのだ。しかし「花岡さん」は元からグループには収まらず、ブレない「花岡節」で中学生活を送っていた。

その一つが彼女のツッコミスキルだった。

「花岡さん」は入学早々、中学の国語教師から「じった」と呼ばれ出したのだ。確かその国語教師の友人の1人に「花岡」がいて、「花岡」と聞くとその人物が「じった」と呼ばれていたのを思い出すなあ、という雑談だったと記憶している。

「花岡じった」と繋げて読むと、「はなおかじった」→「はなをかじった」→「鼻をかじった」…と、言いたいらしい。親父ギャグである。

それ以来、「花岡さん」が「じった」とイジられる度に「じったじゃえねよ!」と、今でいう「角野卓造じゃねぇよ!」ばりのキレの良いツッコミを見せるようになったのだ。

(補足すると、「角野卓造じゃねぇよ!」はお笑いコンビ「ハリセンボン」のツッコミ、近藤春菜さんの風貌が、俳優角野卓造さんに酷似しているところをイジられるという持ちネタ。)

このとき、私の中の「花岡さん」に対するイメージが劇的に好転した。

ともすれば、周囲からいけ好かない女子として認識されていたあの「花岡さん」。彼女の持っていたセンスが輝き出した瞬間だった。

面白い事に、その国語教師は逆に男子生徒から「パイナポー」というあだ名をつけられていた。もみあげから後頭部を刈り上げて、トップを立てていたヘアスタイルもあるが、顔面のフォルムが下ぶくれていてまさに「パイナポー然」としていたがために、完全に形から入ったあだ名であった。

あだ名をつける教師とあだ名をつけられる教師。お互い様の関係が成立していた。

それを見ていた私はというと、父親が「大塚れいた」などと言っていたのをひとり思い出していた。私の旧姓は「大塚」というのだけれど、「大塚れいた」→「おおつかれいた」→「おおつかれた」→「おお疲れた」…と、言いたいらしい。親父ギャグである。

しかしその事についてはその場で一言も発しなかった。親父ギャグというのは総じて脈絡がなさすぎるのである。私が抱いたシンパシーを説明するにはあまりにも冗長であったし、「ボケ」としては確実に殺される。ましてや1人でボケて1人でツッコむという高度な技術は、私には持ち合わせていなかったのだ。私は「傍観者」を決めるほかなかった。

そして不幸なことに、私は同じクラスの一部の男子から「大塚菌」などと言われて、私のロッカーから机から私物から何から、私に関するあらゆるものを触ることを避けられるようになっていた。

「〇〇菌」…あれは小学校で誰かがやられているのを幾度となく見てきたが、中学に上がっても持ち込んでくる奴がいるとは思わなかったし、しかもそれが自分に降ってくるとは思いもしなかった。実際自分がやられてみると、結構きつかった。

私は中学1年生にして「中二病」にかかっていた。当時、「1999年7の月に恐怖の大王が降ってくる」というノストラダムスの大予言が流行っていて、それを信じるということではないが「早く世界が滅べばいいのに」ぐらいには思っていた。7月が終わると、「もしかしたら暦違いで8月にずれるかもしれない」などと淡く考えつつも、ひとり静かに落胆していたのだった。

そんな私から見たら、中学生になった「花岡さん」が少し、いやかなり眩しく見えていた。私にも「花岡さん」のようにツッコミスキルがあれば、「大塚菌じゃねぇよ!」と言えたのだろうか。あとの祭りである。

中学1年の3学期、引っ越しに伴い私は転校した。年子の姉は交友関係が構築できていたため電車通学を選択したが、私にはそこまでして通学を続けるメリットがなかったのだ。よって、私の「花岡さん」の思い出はそこで終わっている。

数年前、彼女がどこかで元気に働いている姿を見かけたような気がする。けれどそれは夢の中だったかもしれない。私の夢と思い出の狭間で、「花岡さん」は生き続けるのだ。

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